2015年5月3日日曜日

Watch Dogs



"Exposed lies, corrupted kings, a broken city. And me, a changed man.

I don't look back anymore. I don't regret. I look forward. Everything is connected. 
And I'll use that to expose, to protect, 

and if necessary... to punish."



2012年のE3で発表され、それから2年の月日を経て2014年5月にようやく発売された注目作、『Watch Dogs(ウォッチドッグス)』




本作は、スマートフォンを使ってシカゴの街をハッキングするオープンワールド・アクションゲーム。プレイヤーは復讐のために犯罪者を倒す男エイデン・ピアースとなり、ハッキングを駆使して陰謀と戦う。
何度か延期を挟んだものの、本作は無事に発売された。2014年9月にはシングルプレイヤーDLCもリリースされ、特に海外で凄かったWatch Dogs旋風もすっかり落ち着いたかのように思える。ちょっと"期待はずれ"という声が多く聞こえてきた気がするものの…。

E3 2012でお披露目となった衝撃的なトレイラー。市民に情報が用意され、美麗なグラフィック、そして"ハッキング"という革命的にワクワクする要素など…このトレイラーからは"野心"を凄く感じたし、反響もめちゃくちゃ凄かった。

発売前、新たなトレイラーが公開される度に"グラフィックが低下しているのでは?"とか、その期待値の高さからなのか、なにかと叩かれることが多かったように思う。まあ実際コンソール版の解像度は下がったり、PC版では"発表当時のグラフィックを蘇らせるMOD"が作られたりしているようだけど。そう考えると実際にリリースされまでに色々とあったし、個人的には、本作『Watch Dogs』はいろんな面で興味深い一作だった。この記事を書いている時点で発売からほぼ1年経とうとしているけど、良くも悪くも未だに引っかかる部分が多い。

"おもしろいオープンワールドゲームとは何か"

"大作ゲームとは何か"

"開発元のUBISOFTは世界征服でも企んでるのか"

…などなど、プレイを終えてから、考えれば考えるほど夜も眠れないほど気になってくる。

『Watch Dogs』とは何だったのか?





・ストーリー



自らの失敗が原因で家族が危険に晒され、姪を殺された男、エイデン・ピアース
彼はシカゴのブルーム社が運営する監視システム、ctOSを使い復讐を遂行する…というのが本作のストーリー。リリースされる前は、街を管理するブルーム社に肉薄していく内容だったり、"行き過ぎた管理"に支配される街のディストピア的な話になっていくのかなー、と勝手に思っていた。"絶対的権力による監視"といえば現実でも2013年に明らかになったNSAのPRISM計画なんかが記憶に新しい。

実際、『Watch Dogs』がバリバリ開発中だった最中にこのような事実が発覚し、UBISOFTの開発チームも度肝を抜かれたのだとか。

エドワード・スノーデン

このエドワード・スノーデンの暴露によって、まさにゲームのコンセプトのような現実が明るみになり、米国のみならず世界中に衝撃が走ったこの出来事。『Watch Dogs』は今まさに現実で起きていることを物語に組み込んだとてつもない作品になるかも…という期待を抱いていた部分はあった。監視や管理といったテーマを扱った作品は面白い。面白いに決まっている!…しかし問題は、本作のストーリーで扱われる本題がソレではないということなんだろう。


監視社会をテーマにした作品といえば『1984』が有名だろうか。しかし、『Watch Dogs』はどちらかというと『狼よさらば』のような自警市民モノの側面が強い。『Watch Dogs』は風刺や社会的なメッセージではなくて、あくまでもわかりやすいアクション部分に重きを置いているゲームだ。

狼はさらばしないし、ビッグブラザーは見てない。

この2つをミックスさせ、丁度良いバランスを保っているのが米国のドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』だろう。主人公のスーパーヒーロー感、コミック的なキャラクターやストーリーなど、『Watch Dogs』との共通点も多い。イヤ、めちゃくちゃ似ている。『パーソン・オブ・インタレスト』のバランス感覚はまさに『Watch Dogs』だ。犯罪予知システムで未然に犯罪発生を防ぐというドラマのコンセプトも、『Watch Dogs』ではアクティビティとして組み込まれている。

パーソン・オブ・インタレスト NYを監視する"マシン"を巡る、基本1話完結型ドラマ。

ただ、『Watch Dogs』のストーリーはイマイチ盛り上がりに欠ける。
ブルーム社とエイデンは直接的には関係ないし、エイデンの興味は復讐と旧友ダミアンに向くばかり。復讐を遂げるために、スマートフォンからctOSにアクセスして犯罪者(フィクサー)達を倒していく。つまり、エイデンはctOSの一利用者にしか過ぎない。ストーリーが進んでいくにつれて、俺が見たいのはそっちじゃないんだけどなー…という方向に舵を切って突き進んでいく、そんな話だった。エイデンを突き動かす理由が正直どうでもいい…な感じであるため、没入感はそこそこ、盛り上がりはまあまあ、作り込まれた造形のキャラクター達は単純に出番が少なく、これまたうーん…といった出来。ストーリーで回収できていない、というより意図的に回収しなかったのでは?と思わしき伏線みたいなものもいくつかある。ハッカー集団デッドセックの印象は薄いままで、ブルーム社についても十分には描かれていない。





・主人公 エイデン・ピアース



本作の復讐劇の中心にいる人物、それがエイデン・ピアース。…なのだが、エイデンは不思議なキャラクターだ。なんでも一人でやってしまう。
なんというか、ブレている。ストーリーでも周りに流され、指示を受けて何かをすることが多いため、そのルックスと深い声と手に持っているスマホしか印象には残らないだろう。
また、海外のゲームはAngry White Man(怒れる白人中年男性)が主人公である作品が多すぎることが度々話題に上る。


大作ゲームの主人公っていうのは大体白人で、大体しかめっ面してて、大体デカい銃をぶっ放している。みたいな一種のステレオタイプが出来上がってしまっていて、多くのプレイヤーが変わり映えしない主人公像にウンザリしているし、開発側も変革しようと頑張っているようだ。ゆっくりではあるものの流れは変わってきている。そもそも全世界の人間が自己投影できるのは30そこいらの白人ではないし。
が、しかし、エイデン・ピアースもその例に漏れず、怒れる白人中年男性である。そんなワケで、エイデンは典型的な大作ビデオゲームの主人公であり、そこに面白味とか新鮮味はまったくといっていいほど無い。

同じデザインの衣服と帽子と常にスマホを手放さない姿は面白いけどさ

本作は一応"オープンワールドゲーム"だ。バーチャルに再現された箱庭空間を自由に散策できるというジャンル。そのオープンワールドゲームというジャンルで一番難しいなーと思うのは、ミッションとミッションの間にある"フリーローム"を如何に成立させるかということ。
本作も基本的には"ある地点に行って開始するミッション"の中でストーリーは進行していくわけで、それ以外に設けられるミッションの合間の時間は何をしても良い。それが"自由度の高さ"を売りにしているオープンワールドゲームというジャンルの強みでもあると思う。
そこで1つ問題があって、エイデンさんは最近のオープンワールドゲームの主人公としてはめずらしいほど暗い。プレイヤーは数時間、本作のような大作であれば少なくとも数十時間は動かしたり、眺めたりして、ドラマで言えば1シーズン分に相当するくらいの長い付き合いになる。だったら魅力的なほうが良い。

その点について考えると、エイデンはどうだろうか?

スマホのアプリで大はしゃぎ(後述)する一方で、時にはクールにギャング達を倒していく。ハッキングを駆使する一方で、他人の自宅にあるカメラに侵入してプライベートを覗く。ポーカーにいそしみ、酒飲み対決をする。



自らの技術をフル活用し、市民の口座をハッキングしてATMから現金を引き出すことで生計を立てる男

…魅力的なのか?

没入感を高めるのはプレイヤーとキャラクターの距離。一歩引いた視点でも楽しめるのは、そのキャラクター自体が魅力を持っている証拠。では、プレイヤーはATM泥棒にどう感情移入すべきなのか?ATMの件は置いておくとしても、答えはわからない。エイデンのストーリーをすべて体験し終え、何十時間に及ぶプレイを一旦区切った後も、なんだかノリ切れなかった。

というのも、最近のオープンワールドゲームは"ああ…いい人だ…"と思える主人公が多かったからかもしれない。

『inFamous Second Son』のデルシン・ロウ。ストーリーがゲームプレイの楽しさと直結していて没入感が凄い。

『アサシン クリード4 ブラック フラッグ』のエドワード・ケンウェイ。大きな一つの目的を達成する過程で苦難を乗り越え、成長していく。シリーズの中でも珍しい人間臭さ溢れるキャラクター。

個人的に、オープンワールドゲームにおける主人公の扱い方で最も面白いなーと思ったのは『Grand Theft Auto V』かもしれない。

『Grand Theft Auto V』の主人公。左からマイケル、フランクリン、トレバー。

『Grand Theft Auto V』の3人主人公というのは、物凄く頭の良い方法だった。『GTA V』にはマイケル、フランクリン、トレバーという3人の主人公が登場する。

マイケルはGTAにおけるゲームクリア後の人生を描く役割を担っている。
フランクリンは従来のGTAシリーズの主人公像を受け継ぐ形のキャラクター。
トレバーはその他諸々クレイジーな部分を担う。

この役割分担が見事で、複数主人公を採用することによって異なる視点からストーリーを楽しめたり、その特定のキャラクターでなければ成立しない話なんかも楽しめてお得だったりする。『Watch Dogs』は用意されているアクティビティが幅広すぎて、ともすれば大雑把だ。

ゲーム内に存在する、膨大な、すべての要素を一人で背負ってしまっているからこそ、エイデンの全体像はうっすらとした印象になってしまっている。

…アンタは一体何なんだ




・ゲームプレイ



本作のような新規IPのオープンワールドゲームが出ると必ず比較されている感じはするけども、先ほど触れた『Grand Theft Auto V』と比較されていることが多いように思う。忘れてはいけないのが、このゲームはUBISOFTによって作られているということ。なので、他のゲームと比較するならば、どちらかといえば『アサシン クリード』の名前が挙がるべき…なのかもしれない。

E3 2012で公開されたデモとかを見た限りでは、銃をバカスカ撃ってるしカジュアルなTPS寄りの戦闘システムなのかと思っていた。しかし実際にプレイしてみると思っていたよりステルス寄りというか、完全にステルスに特化した戦闘システムだった。本作のゲームシステムを簡単に説明すると、スプリンターセルの戦闘システムシンプルになったアサシンクリードのパルクールが組み合わさったものだ。この2つのゲームはどちらもUBISOFT製である。

『スプリンターセル』。ステルスゲーム。

『アサシン クリード』。ステルスゲーム。

このように、ステルス狂のUBISOFT製ゲームをすべて組み合わせたようなUBIキメラともいうべきゲーム性になっている。

個人的には、本作をプレイしていて"オープンワールドゲームとして楽しい"と思えるような瞬間は少なかった。ハッキングのみで運転しながらの銃撃(いわゆるドライブバイ)ができないカーチェイスは煩わしさを感じる瞬間のほうが多かったし、そもそも車の挙動がちょっとヘンなので、広大な空間を移動する爽快感はあんまり。カーチェイス中にシカゴの裏路地に隠れて、エンジンを切って隠れるみたいなフィーチャーは面白いんだけど。
歩行時は移動速度自体が遅く、ちょっとした段差を越えられなかったり、勢いあまって屋上から落ちてしまったりで、目的地まで遠回りする羽目になったりする。そしてエイデンの体力設定が低いので、"大丈夫だろ…"と思って高所から落ちると、死ぬ。

中年の筋力を正確にシミュレートすると、死ぬ。

どちらかといえば小さな空間で繰り広げられるアクションが面白く、監視カメラをハッキングして敵の位置をマークしたり、ギュッと凝縮された箱庭空間でどのルートを使い、どう攻略するか、そういった楽しさの方が大きい。簡略版『アサシン クリード』の移動感で現場に向かい、簡略版『スプリンターセル』の戦闘システムで敵を倒す。そこに『Watch Dogs』特有の"ハッキング"というヒネりが加わっている。

敵がいるエリアの攻略は、まず監視カメラで敵の位置を特定する作業から。

また、『Watch Dogs』は『アサシン クリード』の第一作目のプレイ感に非常に近い。『アサシン クリード』シリーズは今でこそアドベンチャー色が強くなっているものの、『アサシン クリード(初代)』は本当に“暗殺だけ”のゲームだった。主人公になりきるロールプレイに重きが置かれているという点も、『アサシン クリード(初代)』と『Watch Dogs』の共通点といえるかもしれない。しかし、『アサシン クリード』シリーズは一年一本ペースで続編が作られていき、見た目のカスタマイズの幅も、戦闘の選択肢の多さも更に広がっていった。そんな感じで最新作の『ユニティ』では武器からスキルから服装まで、すべてをカスタマイズできるようになり、主人公をプレイヤーの分身にできるようになった。

『Assassin's Creed Unity』より、俺のアサシン

『アサシン クリード(初代)』にカスタマイズ性は無かったが、『Watch Dogs』には申し訳程度のモノが用意されている。
まあ、結果としてちょっとおかしな事になってしまった気はする。

偏執狂的といえるほど同じデザインのコートがズラッと並ぶ様

『アサシン クリード(初代)』はこういう仕込みをして… ターゲットがここに来たら暗殺…
と頭に浮かべたプランが実際に上手くいくかの"賭け"の側面が強いゲームだった。例えば"人混みに紛れて暗殺し、すぐに逃げ出して行方をくらます"みたいなことをやろうとしてもなかなか上手く行かないのだ。方法が限られていたから。結局、最後は投げナイフ全力投球ゲーになってしまうのが弱点だった。『Watch Dogs』のゲームプレイ(主に戦闘)はそんな『アサシン クリード』を連想させる。

あそこにある分電盤をハッキングして爆破させて…

あの敵が他の敵と合流したら爆薬をハッキングして…

ターゲットの車両が通過する時に仕掛けた爆弾を爆破して…など。

すべてはタイミングによって左右される。

上手くいかないと分電盤爆破!ドカン!ジェネレーター破壊!大停電!段差かと思ったら意外と高さがあった!死亡!みたいなことになりかねない。というか何回か実際にそうなった。

本作ではアクティビティの一つに、冒頭に書いた『パーソン・オブ・インタレスト』的な"犯罪予知"というものがある。ランダムに発生する犯罪をctOSによって検知し、現場に向かって犯人を阻止するのが目的。なんだけど、あまり発展性がない。というのも、現場に向かって適当なオブジェクトの陰に隠れて、スマホを構えつつ犯人が行動に出たらすかさず警棒を使って気絶させて終わる。それか、その場で殺害する。もしくは、犯人に気付かれて追跡することになる。
犯罪予知イベントは大きく分けるとこの三つに分岐するのだが、それだけと言ってしまえばそれだけだ。"単純な繰り返し"感が強い。『アサシン クリード(初代)』もそんな感じのミッションが多く、暗殺を実行に移すまでは盗聴、尾行、戦闘をひたすら繰り返すだけだった。『アサシン クリード』は2007年頃のゲームだからまあ試行錯誤な部分は仕方ないとしても、なぜ7年後にリリースされ、しかも同じ開発元からリリースされた『Watch Dogs』で同じことが起こっているんだろうか?

あと特筆すべきなのが、本作におけるミニゲームのミニゲーム感だろう。イヤ、ミニゲームなんだからミニゲーム然としているのは当たり前というか、そうあるべきなんだけど。最近のゲームではめずらしいほどに、本筋とまったく関係ない。しかもエイデン、スマホのアプリで大はしゃぎする。

ちょっと紹介しておくと…

ARアプリ"NVZN"。各ラウンドに出現するエイリアンを倒してスコアを稼ぐ。

同じくARアプリ"キャッシュ・ラン"。制限時間内に、フィールドに現れるコインを集める。

4つのミニゲームが用意されているデジタル・トリップ。↑は"Flower"

…何だこのまとまりの無さは?

個々のゲームが本当に独立している感じというか、ウォッチドッグスじゃなくてゲームウォッチというか… 最近はなかなかストーリーやサイドミッションと完全に独立した"ミニゲーム"は見てなかった気がするので、これはこれで新鮮という感じもする。


一方、敵との戦闘は、素直に楽しいと思える出来だ。単純に敵を倒すのが楽しい。というのも、サウンドデザインが素晴らしいし、ハッキング以外にもかっこいい能力が使えるし。ほとんどの場面でサプレッサー付きの拳銃を使っていたのだが、ヘッドショットが決まった時のスパッという音が気持ちよくて仕方がなかった。

トレイラーが公開された頃から幾度となくフィーチャーされ、本作を象徴するような能力といえるのが"ブラックアウト"だろう。

ブラックアウト

スマホをポチッっとすればシカゴの街に大停電が発生し、プレイヤーは暗闇の中に紛れ込み、敵を倒したり、戦闘から逃れることができる。

停電中に敵を全滅させ、電力が戻った時にプレイヤー(俺)だけがそこに立っている場面、たまらないです。

ただし、このブラックアウトには制限があって、夜の間しか使えない。まあ停電を起こして相手の目をくらます能力なんだから当然といえば当然だけど。このブラックアウトの関係からなのか、メインミッション中の時間帯は強制的に夜になることが多い。

そして、一時的に時間をスローにする能力"フォーカス"


フォーカス

このフォーカスを発動することで時間の流れが緩やかになり、周囲の状況を把握したり、戦闘中は精密な射撃で敵を倒せるようになる。このフォーカス発動中は、雨が降っている時は雨粒が視認できるようになったり、銃の射撃音はより重低音が響くようになり、そしてやっぱりヘッドショットが決まった時の感覚がなんとも気持ちいい。

こうやっていろいろと楽しい要素は揃っているものの、やはり戦闘でも体力設定が低いため、銃弾を2,3発でも食らうと死んでしまう。

複数のルートが用意されているように見えて、敵がいる場所に突っ込んで戦う という方法はほぼ不可能だ。なぜならエイデンがすぐ死ぬから。敵が近づいてきて、カバーから出たりしてる間に撃たれて死亡…というパターンがあまりにも多い。本作が一番輝く瞬間というのは、スニークで近づいて敵の位置を画面に表示させ、ブラックアウトで停電を起こして、敵が右往左往している間にダッシュ、フォーカスを発動して瞬く間に敵を排除していく...時だと思う。もうちょっと体力が高めだったらステルス以外のアプローチも楽しくなったのかな…とは思う。警察に捕まると降伏するモーションが用意されていたり、車に乗っている市民を助けたり、戦闘中に障害物を乗り越えるとコケたりなど、細かい動きがとてもよくできている。なんだけど、すぐ死んでしまうものだから作り込まれた動きをゆっくりと見ている暇もないし、そもそも見る機会が少ない。

ブラックアウトで停電を起こし、その間に建物内に侵入、次々と敵を倒し、明かりがつくと辺りは死体の山… 中央には俺。プレイしていて何回かそういう輝きに満ち溢れた瞬間があった。
そもそも、そういうのがやりたくて39歳結婚歴無しハッカーを動かしてるんだ。

"ブラックアウト"が作り出してくれる環境は目を見張るものがある

リプレイ性にも問題を抱えている。そもそも、本作には一度クリアしたメインミッションをやり直すミッションリプレイが無い。

サイドミッションは大きく分けると二つ、ギャング・ハイドアウトと車列襲撃というミッションがある。これらのミッションは一度クリアすると再プレイはできない。(発売数か月後に配信されたパッチによって進行状況はリセットできるようになったけども)
フィクサー契約というアクティビティがあるが、こちらはミッション内容のバリエーションが4つしかなく、それを延々とやらされるので段々と楽しくなくなってくる。

プレイヤーのスキルが上達していけば、そのままゲームプレイに反映されやすいデザインではある。後半になっていくにつれて、コツを掴めれば最高に楽しい。真の意味でハッキングを第二の武器にできるし、一度も見つかることなく潜入して敵を倒していくことだってできる。だからこそ、上達した自分のスキルをもう一度、ストーリー中の印象的なシチュエーションで再現したくなる。悲しいかな、プレイヤーとエイデンのシンクロ率が最高潮に達した時には、もうプレイできるコンテンツはほぼ残されていない。脅威が消え去ったシカゴで、路地裏で起きる犯罪を阻止するために奔走するくらいしか出来ないのだ。

一応"善"と"悪"の2つに分かれる評価システムもあるのにセーブデータを複数作れないのも不便だし、せめてミッションリプレイを付けて各ミッションにランキングみたいなものがあれば、また違った楽しみ方ができたのかもしれない。

最終ミッション付近、プレイヤー(俺)とキャラクターがシンクロする瞬間の具体例です

オープンワールドゲームとしてはあまり楽しめなかった、というのは、シカゴの街を散策する楽しみが感じられなかったから、という部分も大きい。ちなみに本作のシカゴ、実際の都市が精密に再現されているのは中央のループ地区だけで、他は結構リアルとは違う様相になっているようだ。
ヘリコプターなど、とにかくビルの上に登る手段が一切用意されていないため、オープンワールド空間の上半分が完全に無駄になってしまっているのがなんだか惜しい。いわゆる“観光ゲー”としては、画面上のHUD(ミニマップ)が消せないのも地味にイタい。それこそ『アサシン クリード』はできるのに!

…邪魔!よく見えない!邪魔だって!





・モーション



エイデンさん、上記のようにすぐ死んでしまったり、思うように動いてくれなかったりする瞬間があるのは確か。しかし、その動き方自体は物凄く緻密に作り込まれている。歩行中、↑みたいに"コートのポケットに手を突っ込む"という動きをするんだけど、この動きを撮影するモーションキャプチャーの時点でかなりの工夫が垣間見える。

エイデンのモーションキャプチャー。紐に手を引っ掛けることでコートの動きをシミュレートしている

やっぱりUBIキメラだな…と思わせる点がもう1つあり、エイデンの戦闘時のモーション。というのも、エイデンの拳銃の使い方は独特で、近接戦闘に特化した使い方をする。
C.A.R.(Center Axis Relock) Systemと呼ばれる射撃方法があって、エイデンの動きはそれに非常に似ている。というかそのもの。

C.A.R. Shooting System。近距離での使用に特化している。早い。

そして、これは先述のUBISOFT製ゲーム『スプリンターセル』シリーズの主人公、サム・フィッシャーの持ち方だったりもする。

『スプリンターセル コンヴィクション』のサム・フィッシャー。強い。

エイデンさん、銃を構えている状態で近接攻撃を発動すると、↓のようになかなかアグレッシブでカッコいい動きをしてくれる。

動ける四十路

ちょっと横道に逸れるけど、日本では2015年10月公開予定の映画『John Wick』。
なかなか楽しい映画で、キアヌ・リーブス演じるJohn Wickもエイデンのような、C.A.R.に近い射撃方法のアクションを魅せてくれる。

通称"ガン・フー"。

動かしてみると、かなり直感的に動く。障害物を乗り越える動作もかっこいいし、銃を構えている状態を一定時間保持していると両手で握り直す動きなんかも細かくて気が利いている。

スプリント→乗り越え動作。

マスクを着用して顔を隠す動作も『Watch Dogs』を象徴するワンシーンだろう。

このように、歩行時のモーションから、戦闘時における躍動感あふれる動きはかっこいい。"思い描いていたプラン通りにいかないもどかしさがある"のは確かだけど、上手くキマッた時の爽快感と、何度でも見返したくなってしまうような動き方のかっこよさはチョー秀逸だ。




・『アサシン クリード』シリーズとの関連




しつこいぐらいに"『アサシン クリード』と似てる!"と繰り返したが、実は軽くクロスオーバーしちゃったりしている。2013年に発売された、タイトルに"4"と付いてるけど通算6作目でお馴染み『アサシン クリード 4 ブラック フラッグ』で、『Watch Dogs』のブルーム社のプレゼン資料が登場する。

"アブスターゴ社"で見つけることができる、ちょっとした小ネタ。

そして、『アサシン クリード 4 ブラック フラッグ』に登場したオリヴィエ・ガノーが、本作『Watch Dogs』にも姿を見せる。サイドミッション「車列襲撃」の最終ミッションは、このガノーがターゲット。

ミッション名もアサシン教団の決まり文句"眠れ、安らかに"

やってしまった…

このミッションでは、エイデンがアブスターゴ・エンターテインメントのCEOであるオリヴィエ・ガノーを無力化(殺害ではない)する。元々アサシン教団が狙っていたターゲットをわざわざ邪魔して倒してしまったのだから、確実に目はつけられてるだろう… まあ彼の足腰でパルクールは無理だと思うけど…

この『ブラック フラッグ』から『Watch Dogs』までの一連の流れ、映画『アイアンマン』のクレジット後のシーンでニック・フューリーが登場した瞬間、映画『マイティ・ソー』でホークアイが登場した瞬間など、そういう近年のマーベル映画におけるクロスオーバーを思い出さずにはいられない。
マーベル・シネマティック・ユニバースならぬユービアイ・プレイアブル・ユニバースを実現させようとする展望を覗いてしまった気がした…。




・UBISOFTの大作主義



『Watch Dogs』は、とにかく発売規模がデカいゲームでもあった。本作はXbox 360、Xbox One、PS3、PS4、Wii U PCでリリースされた。多い。

開発元・発売元のUBISOFTはとにかく"大作主義"を全面に押し出す企業だ。というか、端々から大作主義の香りが漂ってくる。
最近の"大作ゲーム"と呼ばれるゲームは、発売日から配信されるデイワンDLC、店舗ごとの予約特典、そしてシーズンパス… とにかくゲーム本体以外に付随してくるものがなにかと多い。

もちろん、『Watch Dogs』も初回特典、早期購入特典、店舗限定特典だとか、そういう特典で溢れかえっていた。限定コスチューム、限定武器、限定ミッション、経験値ブースト、特定の地域でのみ同梱される特典…すべてを手に入れるのは、まあ、不可能じゃないだろうか。


『Watch Dogs』予約特典の早見表。もう、ワケがわからない。

本作もその例に漏れず、上記のような複数プラットフォームによるリリース、発売前のシーズンパス販売。そしてPlaystationを優先プラットフォームとし、PS限定ミッション、PS限定コスチュームなどを実装している。

『Destiny』などの大作によく見られる、最近特に顕著なプラットフォーム独占コンテンツ。

本作も、やはり開発に相当な年月をかけたタイトルだし、プレイしていても"規模の大きさ"は感じられる。プロファイラーで見えてくる市民に設定されたプロフィールなんて、膨大すぎるほど膨大だし。
また、本作は初期段階では"Nexus"というコードネームで開発が進められていて、エイデンが着用するマスクに描かれているシンボルはこの名残だそうだ。


複数チームで開発に相当な時間をかけ、ワールドワイドで発売し、スマッシュヒットを記録して続編へ…その繰り返しで『アサシン クリード』のようなフランチャイズが誕生する。もしかしたら、新たなフランチャイズが誕生する瞬間の立会人になっているのかもしれない。

あと、本作のDLC"Bad Blood"の冒頭のクレジットでUBISOFTの関連スタジオがズラーッと表示される瞬間があって、なんというか、圧巻というほかない。


…『Watch Dogs』におけるブルーム社のctOSによる管理なんかよりも、UBISOFTが世界を飲み込んでいく様のほうがよっぽど怖いよ。




・これからどうなる?



『Watch Dogs』は決してつまらないワケではない。個人的にはとても惜しいゲームだった。発表時に提示されたアイデアは削ぎ落とされてシンプルになり、技術的にも少しグレードダウンしてしまったかな…という部分もある。
そういう意味で、ずっとやっていたいゲームとか、歴史に残るほどの大傑作というわけではなく、"おもしろかったアクションゲーム"として記憶に残りそうな作品だと思う。単純明快なエイデン・ピアースの復讐劇、もしくは新たなシリーズの第1章という位置づけで考えれば、そんなに悪くはない。『Watch Dogs』は限りないポテンシャルを秘めているタイトルだ。

本作(1作目)で提示されたコンセプトもそうだし、続編ではゲームプレイ部分も大幅に改善されて純粋に“楽しい”と思えるものに仕上がっているかも。この記事では省いた"オンラインハッキング"も面白い。ちょっと詰めが甘い感じもする"ステルスドライビング"も進化が期待できる。単純にインターフェイスやサウンドエフェクトがオシャレ~なのも良い。

確かに、期待されていたほどの出来ではないかもしれない。
発売に漕ぎ着けるまで、いろいろありすぎたかもしれない。
そしてなによりも、訴えかけてくる何かが足りなかったかもしれない。

しかし、大きなフランチャイズの第一歩としては大成功の部類ではないだろうか。…イヤ、大成功の部類だ。というのも、実際に『Watch Dogs』は新規IPとしては歴史的なヒットを記録している。

そうなれば、UBISOFTお得意のシリーズ化は避けられない。

今の時代、売れたら続編作るのは確実。 次回作の開発も水面下で進められているようだし、『Watch Dogs』も『アサシン クリード』に次いでUBISOFTの主力フランチャイズとなっていくのだろう…












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